化粧品の箱に「パラベンフリー」と書いてあるとなんとなく良さそうに見えますよね。パラベンは悪いもので入っていないほうが安心。そういう空気がいつのまにかできあがっています。
ところが成分表示を裏返して見ると別の防腐剤の名前が並んでいます。パラベンが抜けた分を何かが埋めている。当たり前といえば当たり前ですよね。
美肌プロはこの空気に賛成も反対もしません。パラベンと、代わりに入る成分の両方について公開データを見ていきます。この記事は公開されているデータだけを根拠にしています。
パラベンは化粧品・医薬品・食品に広く使われている防腐剤です。正式にはパラヒドロキシ安息香酸エステルといいます。成分表示では「メチルパラベン」のように、アルキル基の名前を頭に付けて書かれます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 化粧品表示名 | メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベンなど |
| 医薬部外品表示名 | パラオキシ安息香酸メチルなど。簡略名は「パラベン」 |
| INCI名 | Methylparaben ほか |
| 配合目的 | 防腐 |
| よく入っている製品 | 化粧水、乳液、クリーム、口紅、パウダー類 |
歴史は1924年にさかのぼります。当時使われていたサリチル酸や安息香酸には強い酸性でないと効果が出ないという弱点がありました。その代わりになる抗菌剤として報告されたのがパラベンです。広いpHで効くこと。いろいろな微生物に効くこと。少量で足りること。この3つが評価され1934年にスイス薬局方、1947年に米国薬局方へ収載されました。
種類の違いは結合しているアルキル基の炭素数です。炭素数が増えるほど少ない量で微生物の増殖を抑えられます。下の数字は枯草菌に対する最小発育阻止濃度(MIC)です。単位のppmは100万分の1で1ppm=0.0001%にあたります。
| 表示名 | MIC(ppm・枯草菌) |
|---|---|
| メチルパラベン | 2,000 |
| エチルパラベン | 1,000 |
| プロピルパラベン | 500 |
| ブチルパラベン | 250 |
数字が小さいほど少量で効くという意味です。ただし実際の製品では1種類を多く入れるのではなく数種類を組み合わせます。少ない濃度で済ませること。耐性菌が出るのを防ぐこと。相乗効果をねらうこと。この3つが理由です。
きっかけのひとつが報道でした。経緯がはっきり記録されている例があります。
2005年8月、メチルパラベンに紫外線が当たると皮膚細胞の老化が進むという研究が新聞で大きく取り上げられました。培養した皮膚細胞にメチルパラベンを加えて紫外線を当てたところ、細胞の死亡率が約6%から約19%に上がったという内容です。
4日後に、日本化粧品工業連合会(現・日本化粧品工業会)がコメントを出しています。試験は表皮の細胞だけを使ったものでヒトの皮膚そのものを使ったものではないこと。メチルパラベンは太陽光の紫外線をほとんど吸収しないこと。この2点を挙げ、実際の使用と結びつくものではないとしました。
原料メーカーの上野製薬も実験を行った研究者に直接確認したうえで反論を出しています。培養細胞を溶液に24時間浸してから紫外線を直接当てた試験だったこと。実際には角質層が化粧品を受け止め、取り込まれた分も速やかに代謝されること。条件がまるで違うという指摘でした。
研究そのものが間違いというより見出しだけが独り歩きした形です。こうした話が積み重なって「パラベン=危険」の印象ができあがりました。
パラベンを使い続けると体の組織に低いレベルでとどまり続ける可能性があると報告されています。ただし、それによって健康に害が出ることを示した十分な裏付けのあるヒト研究データは現時点でありません。パラベンは表皮でパラヒドロキシ安息香酸に代謝され、尿として排泄されることもわかっています。
美肌プロの毒性評価はAです。以下はメチルパラベンの公開データを整理したものです。
| 評価項目 | 内容 |
|---|---|
| 美肌プロ毒性評価 | A |
| 収載 | 厚生労働省の防腐剤ポジティブリスト、日本薬局方、医薬部外品原料規格2021 |
| 使用実績 | 50年以上 |
| 皮膚刺激性 | ほとんどなし〜わずか |
| 皮膚感作性 | ほとんどなし。ただし皮膚炎がある場合や感作の経験がある場合はまれに起こりうる |
| 経皮吸収・代謝 | 表皮でパラヒドロキシ安息香酸に代謝され、尿として排泄される |
実際にどのくらい入っているのかも数字が出ています。化粧水を調べた報告ではメチルパラベンの配合量は平均0.097%、最も多いもので0.2%ほど。ブチルパラベンは平均0.013%、最も多いもので0.051%ほどでした。医薬部外品の配合上限はパラオキシ安息香酸とそのエステルの合計で1.0%です。
上限に対して実際の配合量はかなり低いところに収まっています。数種類を組み合わせた相乗効果で少ない量が足りているためです。
日本の報道より前の2004年、英国の大学の研究チームが乳がんの腫瘍組織20検体からパラベンを検出したと報告し、「パラベン=乳がん」の不安が世界に広がりました。ただこの研究にはがんのない組織との比較がなく、検出された事実だけでは原因かどうか判断できません。論文自体も体内にどれだけ残るかを調べる入り口と位置づけた内容でした。
この騒ぎのあと海外の公的機関が時間をかけて再評価しています。EUの消費者安全科学委員会(SCCS)が2010年から2013年にかけて出した一連の意見書ではメチルパラベンとエチルパラベンを現行上限の範囲で安全と確認し、プロピルとブチルは合計0.19%(エステルとして)まで安全という数字を出しました。EUは2014年にこの評価をもとに2種の合計上限を0.14%(酸として)と定め、3歳未満の子どものおむつ周りに使う塗りっぱなし製品への使用を禁止。あわせて安全性データの提出がなかったイソプロピルパラベンなど5種を配合禁止にしています。主要4種は「調べた結果残った」成分で、消えた5種は「危険と判明した」のではなくデータ不足という整理でした。
米国で化粧品成分の安全性を審査するCIRも2008年に主要7種を評価し、化粧品での使い方の範囲で安全と結論しました。2020年の再評価では対象を21種に広げ、製品中の合計が0.8%を超えない使い方で20種を安全と整理しています(ベンジルパラベンのみデータ不足で判定を保留)。乳がんとの因果関係を認めた公的評価は現在まで確認できていません。
前段の配合上限1.0%は医薬部外品の数字でしたが、一般の化粧品でも上限は同じ1.0%です。化粧品側の根拠は厚生労働省の「化粧品基準」(平成12年厚生省告示第331号)別表第3で、パラオキシ安息香酸エステルとそのナトリウム塩の合計を100g中1.0gまでと定めています。防腐剤はこのリストに載っている成分しか使えない仕組みなので、上限と顔ぶれの両方を国が管理していることになります。
では実際にどの種類がどれだけ使われているのか。美肌プロのデータベースで全成分データのそろう1,066商品(データは2026年10月時点)を数えました。医薬部外品表記やNa塩などの別名は同じ種類に合算しています。
| 表示名 | 配合商品数 |
|---|---|
| メチルパラベン | 84商品 |
| エチルパラベン | 10商品 |
| プロピルパラベン | 9商品 |
| ブチルパラベン | 2商品 |
| 「パラベン」(医薬部外品の総称表記) | 22商品 |
| パラベン族全体 | 107商品(10.0%) |
内訳は効き目がおだやかなメチルパラベンに大きく偏り、MICの表でいちばん強力なブチルパラベンは2商品だけでした(複数種を併用する商品があるため内訳の合計は107を超えます)。「強いパラベンが山ほど入っている」というイメージと実際の使われ方はかなり違います。
表示位置の中央値は後ろから2番目で、92.5%の商品が全成分の後半3割に収まっていました。少量で効くという前段の説明そのままの並びです。また107商品のうち70商品はフェノキシエタノールとの併用型で、フェノキシエタノールを併用しない商品は37でした。両方とも入らない468商品(43.9%)では別の防腐成分や多価アルコール類が品質を支えています。
化粧品の全成分をチェックする
手元の化粧品も調べてみませんか。美肌プロ毒性評価が出ます。
水分を含む化粧品は防腐剤なしでは菌やカビが繁殖します。だから「パラベンフリー」の製品にもほぼ必ず別の防腐剤が入っています。パラベンが抜けた穴を何かが埋めているわけです。
パラベンの代わりによく使われるのは、こんな成分です。
| 代替として使われる成分 | 公開データでわかっていること |
|---|---|
| フェノキシエタノール | 40年以上の使用実績。皮膚刺激性・皮膚感作性ともにほとんどなし〜わずか。化粧水では平均0.260%、最大0.550%の配合例 |
| 安息香酸Na | 40年以上の使用実績。食品添加物としても指定されている。0.2%以下では皮膚刺激性ほとんどなし |
| 1,2-ヘキサンジオール | 防腐補助成分に分類される。単独ではなく他の防腐剤と組み合わせて使われることが多い |
こうして並べてみるとどれかが特別に危ないという話ではないと思いませんか。パラベンも代替成分も公開データの上では通常の配合量で問題のない成分として扱われています。
「パラベンフリーだから安全」でも「パラベン入りだから危険」でもない。見るべきなのはフリー表示ではなく、何がどれだけ入っているかです。
逆にいえば当てはまらない方が過度に怖がる必要はありません。気になる場合も避けるより先に成分表示を見るほうが役に立ちます。
Q. パラベンフリーのほうが肌にやさしいですか?
A. 一概には言えません。フリーの製品にも別の防腐剤が入っていて、そちらも公開データ上は問題のない成分です。
Q. パラベンは何種類も入っていると危険ですか?
A. 種類を組み合わせるのは、少ない量で幅広い菌に対応するための設計です。数が多いほど危険という意味ではありません。
Q. 防腐剤が入っていない化粧品はありますか?
A. 水を含む製品では何らかの形で品質を保つ工夫が必要になります。防腐剤が無いのではなく、別の成分が担っていると考えてください。
パラベンが入っているかどうかは全成分表示を見れば分かります。表示はこう並びます。
水、BG、グリセリン、スクワラン、トコフェロール、
フェノキシエタノール、メチルパラベン、香料
↑ここ
「パラベンフリー」の製品ではこの位置に別の防腐剤の名前が入ります。フェノキシエタノールや安息香酸Naが並んでいたらそちらが防腐を担当しているということです。
防腐剤は少ない量で効くので表示の後半に出てくることがほとんどです。ただし1%以下の成分は順不同で書いてよいことになっているため後半の順序から量は読み取れません。詳しくは化粧品の全成分表示の読み方にまとめてあります。
美肌プロの成分データベースならパラベンの用途と安全性評価をそのまま確認できます。「パラベンフリー」と書かれた製品を1本手に取って、全成分表示と見比べてみてください。1本ぶんの成分分析を自分の目でやってみるとフリー表示の見え方が変わります。
美肌プロは「パラベンが入っているから悪い」「パラベンフリーだから良い」という判断はしません。データを並べるところまでが役割で選ぶのは読む人です。
化粧品の全成分をチェックする
読み終わったら、気になる1本を検索してみてください。全成分と評価が一覧で出ます。
本文の規制・安全性に関する記述は次の公的資料で確認できます(3つ目のみ英語です)。