いま美容の話題で最も勢いのある言葉がPDRNです。韓国コスメを中心に「PDRN配合」をうたう製品が次々に登場しています。
ところが製品を裏返して全成分表示を読むとPDRNの文字がどこにもありません。初めて探した人は戸惑うはずです。
これは製品の不備ではありません。仕組みを知ると全成分表示の読み方が一段うまくなるので順番に説明しますね。
2026年の夏からは「PDRN 発がん性」という言葉も一緒に検索されるようになりました。騒ぎの発端は海外の当局が1つのクリームから禁止色素を見つけたという発表です。PDRNそのものに発がん性が見つかったという話ではありません。
ポリデオキシリボヌクレオチド(PolyDeoxyRiboNucleotide)の頭文字を取った言葉です。中身はDNA、正確にはデオキシリボ核酸の断片を指します。
もともとは美容医療の分野で知られた言葉でした。注射の施術名として聞いたことがある方もいるかもしれません。ただし注射は医療の領域で化粧品とは制度も確かめられていることも別です。この記事が扱うのは主に化粧品の話です。
| 基本情報 | 内容 |
|---|---|
| 言葉の意味 | ポリデオキシリボヌクレオチドの略称 |
| 正体 | DNA(デオキシリボ核酸)の断片 |
| 「PDRN」という表示名称 | 日本化粧品工業会のリストに収載なし |
| リストにある核酸系の名前 | DNA-Na、DNA、加水分解DNA など |
| 美肌プロ毒性評価(DNA-Na) | A |
日本化粧品工業会の成分表示名称リストを「PDRN」で検索すると0件です。全成分表示はこのリストの名前で書くのが原則なのでパッケージにPDRNとあっても裏面には別の名前で載ります。
リストに収載されている核酸系の表示名称はたとえばこうです。
| 表示名称 | 英語名 | 公式の定義 |
|---|---|---|
| DNA-Na | Sodium DNA | デオキシリボ核酸のナトリウム塩 |
| DNA | DNA | デオキシリボ核酸 |
| 加水分解DNA | Hydrolyzed DNA | DNAを加水分解して得られたもの |
このうちDNA-Naは336件の市販化粧品で使用が確認できます。PDRNという言葉が流行するずっと前から化粧品に使われてきた成分です。
ひとつ注意があります。パッケージの「PDRN」が裏面のどの表示名称に当たるのかは製品ごとに違い、名前だけから断定はできません。裏面にDNAの文字を見つけたら「核酸系の成分が入っている」。表示から読み取れる確かな事実はここまでです。
美肌プロの収録商品のうち全成分が分かる1,066商品で核酸系の表示名称を探しました(2026年10月時点のデータ)。見つかったのはDNA-Naだけです(DNA・加水分解DNAは0)。収録データで配合を確認できたのは36商品(3.4%)でした。
36商品のうち17商品がメディキューブ、6商品がidio(イディオ)の製品です。配合している商品はごく一部のブランドに集中しています。商品名にPDRNと書かれていない5商品でもDNA-Naが使われていました。
表示位置は前から数えて19番目が中央値でした。ただ1%以下の成分は順不同で書けるので位置から配合量までは読み取れません。
紹介記事や広告ではサーモンDNA、サケ由来という言葉とセットで登場することが多いですよね。
ただし表示名称の公式の定義は「デオキシリボ核酸のナトリウム塩」で、由来する生き物の指定はありません。原料が何に由来するかは製品や原料メーカーごとの話です。気になる場合はブランドの公式情報で確かめてください。
名前の印象が強い成分ほど定義に戻って確かめる価値があります。
データベース上のDNA-Naの配合目的は「皮膚コンディショニング剤」です。うるおいを与えて肌を整える。化粧品としての立ち位置はこの範囲にあります。
一方で「肌が再生する」「注射と同じ働きが化粧品で得られる」といった宣伝文句は化粧品で認められる表現の範囲を超えています。見かけたら一歩引いて読んでください。
公開された試験データを直接示せなかったためこの記事では効果や刺激性の数値を挙げていません。数字で語れる段階にない、が正直なところです。
化粧品の全成分をチェックする
手元の化粧品も調べてみませんか。美肌プロ毒性評価が出ます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 使用実績 | DNA-Naは336件の市販化粧品で確認できる |
| 公開試験データ | 個別の刺激性・感作性の公開データは示せなかった |
| 美肌プロ毒性評価 | A |
評価はAで表示名称としての履歴も長い成分です。それでも初めての製品はほかの配合成分との組み合わせも含めて少量から試すのが確実です。
2026年の夏にメディキューブのPDRNクリームから発がん性物質が出たという話がSNSで一気に広まりました。元をたどると公的機関の発表が2つと販売元の声明があります。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 2026年7月24日 | 香港税関が発表。政府の検査機関の試験で市販のコラーゲンクリーム1品から禁止成分スーダンレッドを検出したとして使用中止を呼びかけた |
| 2026年8月7日 | 販売元が日本向けに声明。第三者機関の試験ではスーダンI〜IVはいずれも不検出とし、正規の流通ではない品の可能性にも触れた |
| 2026年8月26〜28日 | シンガポール保健科学庁(HSA)が1つの販売会社の2ロットから微量のスーダンIVを検出し回収を指示。ほかの2社の検体からは不検出 |
香港の発表文に商品名はなく写真だけでしたが、販売元はこれを自社の「PDRNピンクコラーゲンカプセルクリーム」についての発表として声明を出しています。スーダンレッドはスーダンI〜IVなど赤系の色素の一群を指す呼び名です。香港とシンガポールの化粧品規制では使用が認められていない色素です。検出されたこと自体が問題になりました。
「発がん性」という言葉はこの色素に向けられたものです。欧州食品安全機関(EFSA)は2005年に食品に違法に混ぜられた色素を評価し、スーダンI〜IVを遺伝毒性と発がん性がある、またはその可能性がある物質と位置づけました。報道もこの評価を引いています。PDRNやDNA-Naに向けられた指摘ではありません。
シンガポールのHSAは検出量を微量とし、これまで使った人に深刻な健康リスクが生じる可能性は低いと説明しました。そのうえで対象のロットは使い続けないよう呼びかけています。発表の時点でシンガポール国内の健康被害の報告はないことも添えられていました。
販売元は正規品からは検出されていないとして検体の出どころがはっきりしない点を指摘しています。当局と販売元の主張は2026年10月時点で参照した範囲では食い違ったままです。美肌プロはどちらが正しいかを判定する立場にありません。
手元の製品が気になる場合は購入したルートが公式の販売店かを確かめ、販売元の窓口に問い合わせるのが確実です。肌に異常が出たら使うのをやめて皮膚科に相談してください。
参照した資料にPDRNやDNA-Naの発がん性を示した報告は見当たりません。ただし確かめた試験の公開データもありません。
美容医療より前にPDRNはイタリアで医薬品として使われてきました。サケ科の魚の精子から取り出したDNAを高い純度に精製したものです。注射剤や点眼剤などが傷んだ組織の修復を助ける目的で承認・販売されています。
医薬品研究の総説では細胞の表面にあるアデノシンA2A受容体という受け皿に働きかけることが主な仕組みとして説明されています。DNAの材料を再利用する経路に部品を届ける働きも挙げられていました。どちらも医薬品として使った場合の話です。
イタリアの医薬品の製品情報には動物試験の結果が載っています。最大量を与えても半数が死ぬ量に届かず、長く投与しても臓器に目立った異常は出なかったという内容です。総説には5年間で30万件を超える処方を追った市販後調査で安全性に問題がなかったという報告もあります。
ただ、これらの資料には遺伝毒性(遺伝子を傷つける性質)や発がん性を調べた試験の項目がありません。化粧品成分としてのDNA-Naについては、海外の化粧品成分の安全性評価機関による個別の評価も参照した範囲で見つかっていません。「危険という証拠がない」と「安全が証明された」は別のことです。
同じPDRNという言葉でも塗る化粧品と美容医療の注射では体への入り方がまったく違います。
| 項目 | 化粧品(塗る) | 注射(美容医療) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 化粧品 | 医療行為 |
| 届く範囲 | 角層まで | 皮膚の中へ直接 |
| 主な注意点 | 一般的なかぶれや刺激 | 感染・しこり・アレルギーなど注射ならではのもの |
| 相談先 | 合わなければ皮膚科 | 施術する医師 |
化粧品のDNA-Naは肌の表面でうるおいを保つ目的で配合されます。医薬品の研究で語られる組織修復の働きを化粧品にそのまま当てはめることはできません。
注射のほうは効果も長期の安全性もまだ検証の途中です。海外の美容医療の学会発表では美容目的の研究は小規模なものが多く長期のデータが足りないと指摘されました。国内の医療機関の説明でも、がんの治療中の方への美容目的の投与は安全性が確立していないとして主治医への相談をすすめています。
多くの製品でPDRNとして入っているのはDNA-Naです。組み合わせの考え方もDNA-Naが水に溶ける保湿成分であることから見えてきます。
| 組み合わせ | 理由 |
|---|---|
| グリセリン・BGなどの多価アルコール | 同じ水になじむ性質どうしで処方の中でまとまりやすい |
| ヒアルロン酸Naなど他の保湿成分 | 同じ皮膚コンディショニング剤の分類。重ねづけ前提の処方に組み込まれやすい |
| カルボマーなどの増粘剤 | 美容液やジェルのとろみを支える相手として使われる |
組み合わせて避けたほうがよいという記述は資料に見当たりませんでした。裏付けのないまま埋めるのはやめておきます。
水、BG、グリセリン、DNA-Na、アラントイン、…
※ DNA-Naのように全角で書かれることもあります
目印は「DNA」の3文字です。DNA-Kや加水分解DNAなど末尾や頭の違う仲間が並ぶこともあります。
注射は医療行為で化粧品とは別の制度の上にあります。化粧品が働きかけられるのは角層までです。同じ言葉が使われていても同じ土俵では比べられません。
化粧品で認められる表現の範囲を超えた言い方です。うるおいを与えて肌を整える。化粧品として言えるのはここまででそれ以上の約束をする文章からは距離を置くのが賢明です。
全成分表示から配合量は分かりません。配合量の多い順に並ぶのが原則ですが、1%以下の成分は順不同でよいことになっています。表示の位置から読み取れるのは前半のおおまかな傾向までです。
医薬品のPDRNは傷んだ組織の修復を助ける目的で研究されてきたので「がん細胞にも働くのでは」と心配になるのは自然な発想です。参照した資料にPDRNががんを増やしたという報告はありませんでした。一方でその点を確かめた試験も公開されていません。化粧品のDNA-Naは肌の表面でうるおいを保つための成分です。医薬品の話とは土俵が違います。治療中の方が注射を考えるときは主治医に相談してください。
当局の発表で対象になったのはPDRNピンクコラーゲンカプセルクリームの1商品です。シンガポールで回収されたのは1つの販売会社が扱った2ロットだけです。影響のないロットは販売の再開が認められました。同じブランドの別の商品について同じような発表は参照した範囲(2026年10月時点)で見当たりません。ブランドの製品全体を対象にした当局の発表も出ていません。
美肌プロの成分データベースでDNA-Naの用途と評価をその場で確認できます。
「PDRN配合」の製品が手元にあるなら全成分表示のどこにDNAの名前があるか探しながら見てください。
PDRN推しの新作を見かけたらまず裏面でDNAの文字を探すところから始めてみてください。流行の言葉と表示名称のずれを自分の目で確かめられる、ちょうどいい練習台になります。
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